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Team YAMAMOTO presents「tick, tick...BOOM!」(2012.9.17) (1) [ミュージカル]

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9/17(月・祝)14時、「tick, tick...BOOM!」を観てきました。場所はあうるすぽっと(東池袋)。
CAST ジョン:山本耕史 スーザン:すみれ マイケル:ジェロ BAND Piano:前島康明 Guitar:中村靖彦  Bass:えがわとぶを Drums:加藤直史 Keyboards:鎌田裕美子

これまでに2度、「tick, tick...BOOM!」で主役のジョンをつとめてきた山本耕史さんが、翻訳・訳詞・演出・振付を手掛けた新演出版。作者であるジョナサン・ラーソンを尊敬する山本さんなので、きっといいようにやってくれるだろうという期待感がありすぎて、私が思ったのとあまりにちがっていてショックを受けました。観劇直後のTwitterでは、正直な感想とはいえかなり酷評してしまい、見てビックリされた方、不快に思われた方には申し訳なかったのですが、私にとってはそのくらい思い入れがあった作品だったのです。

ここから具体的にどこがどう気になったかを書いていくのですが、今回の「tick, tick...BOOM!」を楽しまれた方は見ない方がいいかも知れません。でも、特に今回はじめてご覧になった方にはこれだけはどうしても知っていただきたいのですが、山本さんはジョナサンが書いた歌詞をかなり大幅に変えています。意訳というレベルではなく、創作と言ってもいいくらい。時にはその曲が伝えようとしている内容を変えてもいます。それでもストーリーの大枠は変わらないので、ジョナサンの書いた美しいメロディとともに彼の30歳を前にした苦悩は伝わっていると思いますけどね。

ここからはネタバレありです。
「チック・チック・ブーン!」終了。思いきって言っちゃうけど、こんなに感動しなかった「チック・チック・ブーン!」は初めて!山本耕史、演出なんかしなくていいから役者やってろよ、いい役者なんだから。って思った。

観劇後、思わずこうつぶやいた私。その理由をちゃんと言わなくてはただの暴言になってしまうので、これからそれを説明します。

前提として、「tick, tick...BOOM!」はジョナサンが劇中にも出てきた「Superbia」(スーパービア)を書いたあと、キャストが大勢だと上演することが難しいとわかり、低予算でできるひとりミュージカルとして書いた「Boho Days」をもとに、ジョナサンの死後、キャストを3人にして書き直され、2001年にオフ・ブロードウェイで初演されたものです。なので、ジョナサンが書いたオリジナルはどうだったのかわからないのですが、ここではこのオフ・ブロードウェイ・バージョンをベースに考えたいと思います。

また、日本語版では、私は2006年の山本耕史主演の再演版を観ており、それと比べている部分もあります。

■最後の3曲
私が気になったのは、歌の部分の歌詞です。最初のうちは、日本再演版の歌詞と比べて、原曲の英語のフレーズをあえて残したところ多いなという印象でしたが、英語歌詞からかなり離れた表現がめだって、違和感を感じるようになりました。特に気になったのは、Come To Your SensesWhyLouder Than Wordsという最後の3曲です。原曲が言わんとしていることと、山本さんの歌詞で表現していることがちょっとちがうんじゃないかと感じたのです。

Come To Your Sensesは日本語解説つきオリジナル・キャスト版CDでは「感性に目覚めなさい」という邦題がつけられています。「防衛を取り払って、私の声を聞いて、五感を全て使って感じ取って」と訴えかける歌だと思っているのですが、山本さんはパンフレットにこの曲へのこだわりとして「一番きれいな歌詞にしたかった」と言っていて、歌詞もサビの部分は「耳を澄まして聞こえるでしょう/風の向かう場所が/目を凝らして/ホラみえるでしょ深く沈む雨の音が」と、とてもロマンティックなんだけど、訴えかける感じとか、感性の目覚めをうながす感じはあまりない気がして、ただきれいな歌で終わってしまった気がするのです。

Whyは、マイケルとの子どものころや高校時代、そして最近までの思い出を歌ったもので、それぞれサビの部分で「I'm gonna spend my time this way」と歌っていて、マイケルと一緒に歌ったりお芝居をしたり、今はマイケルとは道はちがうけれど作曲をしたり、こんな風に自分は生きてきたし、これからも生きていくんだ、みたいな歌だと思っていたのですが、山本版では時系列的な部分は省かれて、抜粋すると、「あの夜あの時/憶えているだろう?/2人きり夢中で歌った〜時は過ぎて行くけど/あの夜あの時/お前の歌声と/一緒に歌っている」・・・みたいな感じで、なんかちょっとちがうんじゃないかなーと思ってしまいました。マイケルとの関係に重きを置いたのだと思うので、それもひとつの考えだとは思うのですが、この直前、ジョンは「スーパービア」を上演できる見込みがないとわかって落ち込んで、作曲家をやめようかと迷っているところをマイケルに励まされ、しかもマイケルはAIDSで余命が限られていると知り、自分も悔いなく生きようと決心した部分ではないかなと思うんです。私はそこがポイントだと思っていたので、違和感を感じたのかも知れません。

Louder Than Wordsですが、どうして思うようにいかないのかを羅列していくような歌詞ですが、山本さんのその部分はすごく内省的な印象があります。ジョナサンの歌詞は、身近なところから、上司のこと、恋人のことと広がって、最後は「どうしてたくさんの人が血を流さなくてはいけないのか」と社会問題にまで視点が広がっていく、その広がり感に若者らしさを感じるんですよね。そしてサビの部分では「鳥かごか翼か」を鳥に問いかけ、「Actions speak louder than words」(行いは言葉より雄弁)ということわざで、今こそ行動を起こす時だと歌っているのだと思うのですが、山本版のサビは「その目は/その両手は/その声は/何を見て/何を掴み/何を叫ぶ」ということで、そこまでの広がりは感じないかな。

山本版の歌詞は全体的に、詩的というか、きれいな歌詞過ぎて、言葉が耳に残りにくい、インパクトがない、ということな気がします。パンフレットの歌詞をよく読めば、ある程度原曲に沿っていることもわかるのですが、聞いた瞬間にわからないし、帰り道に口ずさめるような耳に残るフレーズがないのが残念です。

■山本版の歌詞の良かった点
もちろん良いところもたくさんあります。

Sundayでは、日曜日にブランチをしにダイナーにやってくる客を豚にたとえ、実際、お客の役のふたりが顔を上げると豚の鼻がついているところなど笑えましたね。もともとここは、ソンドハイムの「Sunday in the Park with George」の中のSundayという曲のパロディで、セーヌ川の中州の小島で日曜日を過ごす人々を描くジョルジュ・スーラの話を、そっくりな曲調で替え歌にしたもの。原曲を知っているNYの人たちには笑いどころですが、日本では元の作品を知っている人が少ないので、そこを強調するより、豚に例えて笑わせる方がわかりやすくてよかったと思います。

その次のNo Moreは再演の時もそうでしたが、今回も英語歌詞で歌っていました。工夫したなと思うのは、間奏のところで、山本さんが英語歌詞の内容を簡単に説明していたところ。これで字幕は不要になりましたからね。

Therapyも聞き取りやすくてよかったと思います。言葉を詰め込みすぎると、聞き取るのが大変だし、そのあとどんどん早くなるのでついていけなくなりますからね。


長くなったので続きは後日別な記事として書きたいと思います。
明日(9/25)、もう一度観に行くので、よく観て来ようと思います。

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コメント 2

ミドリ

それは残念でしたね。
感じ方はそれぞれ、私は少し違うことを思いましたので、まだ公演中(進化中)でもありますしコメントさせてください。
カレッサのソロを聞きながら、私はまさに「感じる」ことを促されました。五感が拡がり、そのイメージが最後の曲へと繋がって、見る、聞く、叫ぶの言葉が言葉というより感覚として伝わってきた。カレッサのソロが独立した劇中劇になっていた再演よりも、この曲がここで挿入される意味が肌から伝わったと思います。
whyも二人の関係をジョンの感覚で辿り、また自分の中にある同じ感覚=友への思いを呼び覚まされる歌になっていて、再演の時には他人事だったジョンとマイケルの絆が自分と親友との絆に被さって迫ってきて。再演の歌詞では、どう受け取るべきかややわかりにくい部分があると思っていましたが、思い切ってそれを排したのでマイケルの人物像が明確になったと思います。
ジョンの主観で彼の一週間を彼と一緒に辿り、人生ってそれでも続くし自分達はここで生きてるんだよね、と実感する。作品の芯が伝わり易い、良い脚本だったと思います。
もちろん、この作品自体がもっと良く知られ、ジョナサン・ラーソンが誰なのか説明の要らない環境ならば、また違う、もっと掘り下げたアプローチもあるでしょう。けれど、彼の作品は普遍的な、1990年のNYからこんなに離れた2012年、いや何十年後の日本でも共感できるもののはずだという信念と愛を、私は受け取ったような気がします。大丈夫、ジョナサンと彼の作品は生き続ける。
23日昼の鑑賞でしたが、カーテンコールでは後部席まで総立ちでキャストを迎える熱い公演でした。少なくともあの客席には、「ジョナサン」が伝わったのだと思います。
by ミドリ (2012-09-24 06:09) 

himika

☆ミドリさん、コメントありがとうございます。

私はtick, tick...BOOM!がすごく好きで、歌えるくらい英語の歌詞が頭に入っていて、どうしても比べながら聞いてしまうところがあり、純粋に新しい歌詞に耳を傾けることができていないのだと思います。ミドリさんが感じられた山本さんの素晴らしい感性を受け取れていないのは自分でも残念だと思っています。

お芝居の台本部分はほとんど変えずに、歌の歌詞で独自の感性を表現しようした今回の挑戦、それが30歳の時とはちがう35歳の山本耕史さんであり、何歳になっても人は成長を願い、悩みながら生きていくのだということを体現されているように思います。まさにtick, tick...BOOM!ですね(笑)。

今回の公演を観て感動したという感想もあちこちで聞きましたし、この作品が多くの方に愛されていることはとてもうれしいことです。そういう方にも、「オリジナルの英語の歌詞もとっても素敵なんですよ」と伝えたい思いでいっぱいで、あえてこんな、大ひんしゅく間違いなしの感想を書かせていただいた次第です。

爆弾発言(?)に対する説明責任もあり、もうちょっと続きを書くつもりですが(もちろん、良かった点も含めて)、あくまで私の個人的な感想ということでご理解いただけたらと思います。
by himika (2012-09-24 10:45) 

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