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「ヘドウィグ」についてもう少し書きます [ミュージカル]

森山未來さんのヘドウィグの東京公演が終了。私は楽日には行ってなくて、前回報告した9/9(土)だけでしたが、そのあと気づいたこと、考えたこともう少し書いてみようかと思います。

以降、ネタバレあり。


■壁
ヘドウィグは「ゆるい天国とゆるい地獄の間の壁が私」みたいなことを言って、「Tear Me Down」を歌い始めてましたね。それはどういう意味だったのかな。壁を越えるまでがゆるい地獄で越えたあとがゆるい天国?

もっとわかりやすい壁として、原発事故の立ち入り禁止区域を囲んだ壁が出てきて、それがベルリンの壁に対応しているのですが、「(東西ドイツを隔てていた)ベルリンの壁の崩壊=社会主義の抑圧からの解放」だったものが、森山版ではテロリストを壊滅させるための爆撃によって崩壊したことになっていて、それによって自由を勝ち取ったというよりむしろその逆ではないのかな。

自由を求めてルーサーと結婚することで壁の向こうに行こうとしたヘドウィグ。「何かを得るためには何かを置いていかなければいけない」と言われて、わけもわからず性転換手術を受けさせられるのですが、今回の設定で、牧師が自由に壁の内外に出入りできるのに、ヘドウィグが結婚しなければ出られないというのは無理がある気がします。戸籍がないからなのかも知れないけれど、戸籍がなければ行ってからつくればいいのでは?それとも汚染された地域に住んでいるから差別を受けて壁の向こう側にはいけないということ?ならばママの昔のパスポートを(写真を貼りかえて)使えるのはなぜ?2世だからだめなの?考えれば考えるほど混乱してきます。

■心の闇
イツァークが何度となく語った言葉がこれ。無邪気な感じで「心の闇、心の闇。」と。そのあとに、何かを教えてあげる的なことを言っていたけど、その話がどこにつながっていたのか最後までわかりませんでした。

■白いドレス
9/9の観劇レポにも書きましたが、イツァークの白いドレスの意味がよくわかりませんでした。白いドレスについては私は前から(山本耕史版から)ひっかかっていることがあったのですが、その答えのヒントをみつけました。

映画版のイツァークは、最後にウィッグをかぶり赤いドレスで出てきます。でも山本版(鈴木勝秀演出)では白いウェディングドレスのようなロングドレスでした。(初演時。再演の時は白いドレスだがウェディングっぽくはなかった。)その後、たまたま同じスズカツ演出の「欲望という名の電車」をみたら、精神がおかしくなって最後は精神病院に送られてしまう(本人は船旅に出ると思っている)ヒロインが、台本には青いスーツと書いてあるのに白いドレスで、彼女以外のキャストは黒い服で、まるで死んだ人を送るようだったので、スズカツさんはドレスの色で独特の意味付けをする人なんだと感じたのです。(詳しくはこちらにまとめてあります。)ヘドウィグの夫だったイツァークが、あらためて妻になるみたいなイメージを出そうとしたのかなと。

これだけだと比べようがないのですが、演劇ライターの大原薫さんのブログによると、2005年の韓国版ではイツァークが赤いドレスだったと書かれていました。だからといって赤いドレスが正解なのかはわかりませんが、そういう選択肢もあったはずなのです。

今回のイツァークの白いドレスはウェディングというより、天使に近いような感じを受けましたが、そういう意図を込めてあえて白くしたのか、山本版にならって白くしたのか(それはない?)どうなんでしょうね。

★ライター大原薫さんのブログ There's only here
「ヘドウィグ」(韓国・ソウル・大学路ライブ劇場)

■ヘドウィグ→トミー VS トミー→ヘドウィグ
前述した大原さんのブログにはさらに興味深いことが書かれています。韓国版ではヘドウィグがウィッグをとり床に倒れ込んでそのままトミーになったが、三上博史版ではヘドウィグがいったん退場してトミーとして再登場していたというのです。

ということは、今回の森山版の、「いったん退場してトミーとして再登場」というのは独自の演出ではなく、三上版ですでに行われていたことだったということになります。

ちなみに映画版では、わかりやすさのためか、トミーをヘドウィグとは別の役者が演じているので、どっちがかどっちかになるということはないのですが、ヘドウィグがすべてを脱ぎ捨て、最後は全裸になった後ろ姿が街中に消えていくという終わり方で、トミーからヘドウィグというよりはヘドウィグが全てを脱ぎ捨てて素の自分に戻ったということになると思います。

私の中では、トミーがヘドウィグを許してヘドウィグの片割れとして一体化していくよりも、これはヘドウィグの物語なので、ヘドウィグが最後に自分の片割れを見つけて一体化していった方が自然な気がするのですが、今回、トミーがヘドウィグに明確に詫びる場面があったのはヘドウィグにとって救いになるだろうなとも思いました。

色々考えさせられるヘドウィグでした。


★参考DVD:
・映画版「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」
ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ [DVD]

ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ [DVD]

  • 出版社/メーカー: エスピーオー
  • メディア: DVD


・映画「ヴォイス・オブ・ヘドウィグ」
ヴォイス・オブ・ヘドウィグ [DVD]

ヴォイス・オブ・ヘドウィグ [DVD]

  • 出版社/メーカー: アップリンク
  • メディア: DVD

セクシュアル・マイノリティの高校を支援するためにヘドウィグのトリビュートアルバムを作ろうと奮闘した人たちのドキュメンタリーで、同時にその高校の数人の生徒がセルフビデオで自分のセクシュアリティや悩みや夢などを語るもので、ストーリーの背景に流れるヘドウィグの名曲(トリビュート版)がマッチした素敵な作品です。
→赤いブログ:映画「ヴォイス・オブ・ヘドウィグ」観てきました

・CD「Wig in a Box」
Wig in a Box

Wig in a Box

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Off Records
  • 発売日: 2003/10/21
  • メディア: CD

映画「ヴォイス・オブ・ヘドウィグ」で作ろうとしていたトリビュートアルバムがこれ。
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