SSブログ

『RENT 小嶋プロデューサーに聞く ~RENT & “AIDS” goes on…~』 11/14(水)(2) [RENT(東宝)2012]

RENT_kojima_IMG_0245.jpg
こちらに引き続き、11/14(水)19:00から、表参道のgossip(ゲイカルチャーカフェ、だそうです)で開催された、『RENT 小嶋プロデューサーに聞く ~RENT & “AIDS” goes on…~』というイベントの報告です。

写真は休憩時間に部屋の奥から撮った写真。このくらいぼやけていれば差し障りないかな、と。真ん中の奥で横向きでPCに向かっているのが小嶋麻倫子さん。右手奥で立っている女性が吉田智子さん。(吉田さんが話している相手は北丸雄二さんです。)

■東宝でRENTの上演が決定
前編で報告した通り、意外な方法で東宝に入社することになった小嶋さん。入社が決まって、入社する直前、東宝がRENTを上演するという話が。それを聞いた小嶋さんの反応は次のようなものでした。

なにー?東宝がRENTなんてありえない!

と(笑)。これまで東宝が手掛けてきた作品とRENTはかなり雰囲気がちがうので、きっと小嶋さんも驚かれたのでしょう。

東宝がRENTをやるなら私以外ありえない。

と思った小嶋さんは社内キャンペーンを半年近くやって、ついに東宝RENTのプロデューサーの座を射止めたのだそうです。RENTに対する熱意が伝わったのでしょうね。

■東宝RENT初演(2008年・演出:エリカ・シュミット)
東宝の初演は「(社内の)おじさま方との戦いだった。」と小嶋さん。例えばエンジェルシート(抽選で最前列の10席ほどを安く販売するというもの)について、「お客様が1列目を買えないなんて。(エンジェルシートは)12列目じゃダメなのか?」といわれたり。オーディションの広告を新聞に載せると言われ、「えー?」。(ここで、客席も同時に「えー?」と。笑。)「RENTを受けようという若い人で新聞をとっている人は多くはないのでは?」と理解を求めたり。これまでの東宝の文化との違いを埋めるのに、小嶋さんも東宝の方々もご苦労があったのだと思います。

また、キャストもミュージカルに慣れていない人が多かったため、衣装を着たまま外出してはダメとか、基本的なことから教える必要がありました。キャストがRENTの背景を理解できるように用語集を作成。「アベニューAとはどんなところか」とか、「レンジローバーはどんな車か」など。AIDSやLGBT関係の本も自由に読めるようにおいておき、専門家を読んでレクチャーしてもらうこともあったそうです。

「初演時はアンソニー・ラップがアドバイザーになっていましたがどんなことをしていたんですか?」とレントヘッズの吉田さんがマニアックな質問をすると、「台本でわからないところを聞いたり、エンジェルシートという名前もアンソニーに命名してもらった。」とのこと。実はこの時、アンソニーが来日してキャストと共演するイベント(ジョナサン・ラーソン・トリビュート・コンサート)が予定されていましたが、アンソニーが急遽来れなくなり、ダフネ・ルービン=ヴェガとウィルソン・ジャーメイン・ヘレディアが代わりに来日したということがありました。(こちらなどにレポートあり。)「その時なぜアンソニーが来れなかったのか。」という質問には「映画の仕事が入ってしまって来れなくなった。結局、Anthonyとキャストは直接会うことはできなくて残念でした。」とのこと。

■東宝RENT再演(2010年・演出:エリカ・シュミット)
2年後に、同じ演出で再演。一部のキャストが新しい人に代わりました。この時は、新しく入った人がみんなになじむのに時間がかかったそうです。初演キャストは、日本人同士でもハグしたりして、そういう雰囲気に新しい人が最初はびっくりしたらしいです(そりゃそうだ。笑)。また、逆に初演キャストの中には2回目なので考え過ぎてしまった人も。それでも一緒に作品を作っていくうちにとてもいい仲間、ファミリーになれるのがRENTのいいところですね。

■東宝RENT新演出版(2012年・演出:マイケル・グライフ)
ブロードウェイ版RENTがクローズしたあと、オリジナルの演出家のマイケル・グライフが新たな演出でオフ・ブロードウェイでRENTを再演。それと同じ演出で現在上演中です。日本版リステージとして、エンジェル役をはじめ様々な役を演じRENTと長く関わっているアンディ・セニョールJr.が来日。キャスティングや稽古場での指導などを手掛けました。

「東京での上演で意識的に変えたことは?」との問いに「それはほとんどないですね。東京だからというより、キャストに合わせて(衣装などを)変えたところはあります。」とのこと。歌詞の和訳について、Tango: Maureenの「バックステップは難しい」というセリフを日本ではわかりづらいと判断して「女性のパートは難しい」と変えたそうです。また、Goodbye Loveの最後に「Hello disease」と歌うところをこれまでの東宝版では「ハロー、エイズ」と訳していましたが、アンディが「エイズという言葉を使いたくない。」と言って、かといって「ハロー、病気」にはしたくない日本側。結局、「意味がわからなくてもいいから、ハロー、ディジーズのままにしたい。」というアンディの考えを尊重したそうです。なぜエイズではダメかというと、アンディは「diseaseにはAIDSを含む色々なことが含まれているし、この時代にミミが自分がAIDSだと認識していたかどうかもわからないから。」と言っていたそうです。

今回は衣装デザインのアンジェラ(・ウェント)も来日。アンジェラはもともとのオフ版(そしてそのままブロードウェイ版に引き継がれた)の衣装をデザインした人。本人もレントヘッズたちも衣装に思い入れがあり、変更は難しかったといいます。新しい衣装をマイケルに見せてもなかなか決まらず、ミミの二幕のワンピースやLight My Candleの衣装などはブロードウェイ版のままになったそうです。「衣装を変えるのは難しいことだったようです。オリジナルの衣装のデザインをしたアンジェラだから変更できたという部分があったのでは?」と小嶋さん。

■オーディション
東宝RENTの初演から全キャストをオーディションというやり方ですが、そこにもかなりご苦労があったようです。初演時は8,000通も応募があり、封を開けるだけでも大変だったとか。「あなたにとってRENTとは?」という欄があり、そこにはそれぞれ思いのこもったコメントが多く、そういう思いの強い人にRENTに出てもらいたいと強く思ったそうです。もちろん舞台をつとめる技量がなければオーディションに残れないわけですが。

オーディションでたくさんの人をみてもどうしても見つからない役が時々あるとのことで、決まらない場合は条件に合う人を探してオーディションを受けてもらっていたそうです。ロックが歌える人でミュージカルに出てもいいという人がなかなかいないため難しいのだそうです。ライブハウスに出ていた人をリストアップして探すという作業を続け、「明日大阪でライブがある」とわかり、急遽聴きに行ったこともあったとか。チラシ撮影の前日に最後のひとりが決まったということも。役のイメージを大切にして、妥協をせずにその役に合う人を探すというのがいかに大変なことか伝わってきました。

■オーディション中に役の変更
今回は受けた役と受かった役がちがう人が何人かいました。中村倫也さんはマークで受けていましたが、アンディから「明日はロジャーのパートを歌いに来るように伝えて」と言われびっくり、聞いた中村さんもびっくりだったそうです。ソニンさんの場合、これまでもミミで出演していたので今回もミミで受けていましたが、アンディが「君はモーリーンだよ」と。その時は驚いた小嶋さんも、今は確かにモーリーンだと納得しているそうです。Spiさんもゴードンなどで出ていましたが、今回はベニーになりました。

■若いキャストとAIDS問題
今回はたまたま20代前半の人が多く、その年代は協調性はあるけれど、AIDSへの問題意識についてはやや難しい面があるとのこと。2008年の初演の時は70年代前半生まれの人が多く、AIDSについての話が理解されやすかったのですが、2010年の時は、AIDSのレクチャーで感動する人と「だって今は死なないんですよね。」という人といて、AIDSの危機感を実感できる世代の境目。その時レクチャーした方は「(その時点の)27歳以上の人にはわかるが、それ以下だと難しい面がある。」と言っていたそうです。今回のキャストはさらに若いのでAIDSが死に直結する病であった時代を知らない世代。そういう人たちに理解してもらえるよう教育しているとのことでした。

■キャストによる啓発活動
毎回キャストたちにレッドリボンを作ってもらっているそうで、2010年にはエイズチャリティイベントを終演後に実施しました。HIVポジティブの方2人とソニンさんと田中ロウマさんが出演。通常20分程度のイベントが延びて1時間になり、有意義なイベントになったということです。

今回は11/20からLGBT Pride Weekを開催。キャストだけでなく、東宝の社内でもLGBTの研修を行い、かなり浸透してきているそうです。LGBTの虹は7色ではなく6色ということもみんな知っているし、「指輪をしていてもパートナーが異性とは限らない」とか、「男性でも女性でも入れるトイレのこと」など、さまざまなことについて社内研修をしているそうです。

RENTのキャストにも、最初に啓発活動について話し、「RENTに出演するからにはそういう活動に参加して下さい」と話すことにしているそうです。

■RENTはピリオド・ピース?
吉田さんから「ダフネが来日した時に、RENTはピリオド・ピース(あの時代のもの)と言っていました。AIDSのことや歌詞にミレニアムという言葉も出てきますが、今は状況が変わっています。それでも今RENTを上演する意味をどうお考えですか?」と問われた小嶋さんは「「日本では人とちがうことは言いにくい。そんな日本だからこそ、ちがっていいこと、それを受け入れていくのだと伝えたいです。」と。

■質疑応答・意見など
小嶋さんだけでなく、会場に来られている方々も含めての質疑応答となりました。
・北丸雄二さんから
会場にいらしていた北丸さんからエイズ問題に早くから取り組んでおられたジャーナリスト仲間のご紹介があり(北丸さんご自身もジャーナリストで、1990年代からニューヨークで活動されている)、「Hello disease」についてコメントされました。それによると「1990年代は自分がエイズだとわかっても言えないという状況でした。ゲイであってもゲイと言えずディファレンスと言ったりしていたのです。演出家(ここではアンディのことを指している)がdiseaseにこだわったのは、そういう背景からだと思います。」

・質問者1(himika)
Q.オフ版(新演出版)は、東宝のエリカ・シュミット演出版に似ていると感じたが、小嶋さんはご覧になってどう思われましたか?
小嶋さん:似ていると思いました。RENTが書かれた同時期の人には抽象的な表現でもわかるけれど、今の人に伝えるためにはよりわかりやすい表現が必要だと思います。

Q.新演出ではエンジェルの衣装がこれまでの女の子風(スカートなど)から男の子風に変わりました。それはニューヨークでも当時は女装の方がドラッグクイーンとわかりやすかったが今は変わった、というようなことがあったのでしょうか?また、日本ではまだ女装の方がわかりやすいのか、新しい衣装でも理解されるのか、どう思われますか?
小嶋さん:エンジェルは前は可愛い男の子という設定でしたが、新演出では「ストリートに生きている感じ、ストリート感を出したいと演出家が決めた」とのことでした。日本でどちらがいいかについては逆にお聞きしたいです。」
会場から「僕は女の子風の方がいい!」という声が上がりました。

・質問者2
Q.HIVについて、今回のキャストは理解できたと思いますか?また、お客さんには伝わるでしょうか?
小嶋さん:キャストは今の状況を認識しています。身近にそういう人がいない(いないと思っている)と実感としてわかりにくいところもあるかも知れませんが。お客様も様々なので、伝える努力をしていきたいです。

Q.HIVや同性愛について、日本を舞台にした演劇等はありますか?今後作っていただけますか?
日本HIV陽性者ネットワークのHさん:あまりないのが現状。ゲイの劇団である「劇団フライングステージ」の関根氏はとてもいい本を書いている。また、ゲイのアーティストで1995年にエイズで亡くなった古橋悌二氏の「ダムタイプ」(というアーティストグループ、wikipedia)の「S/N」がとてもよかった。この作品はHIV陽性者が表現した作品として世界的に高く評価され、シンガポール、ブラジル、フランスなど多くの国で上演されました。

・質問者3
Q.RENTのキャストがLGBTパレード以外でしている活動はどんなものがありますか?
小嶋さん:LGBTパレード、青山のLGBTイベントでの楽曲披露、葉山のカラフルカフェでの楽曲披露など。その他にも予定されていますが、今のところ一覧で見れるようになっていません。そういうご要望があるのですね。検討します。

・参加者から
今日、受付をしてくださっている永易至文さんが書かれた「にじ色ライフプランニング入門--ゲイのFPが語る〈暮らし・お金・老後〉」はゲイの人の老後というだけでなく、1人暮らしの人やいずれひとりになっていく誰にとっても役に立つ本。お金のことや、老後の福祉、助け合いをどう作っていくかなど、とても参考になるのでお勧めしたい。

当日の参加者はRENTのファン、HIV/AIDS関係の方などが2〜30人ほど。和やかな雰囲気で、色んな分野の方のお話が聞けて、とてもよかったです。

このあと、残れる人はRENTのように小さいテーブルを一列に並べておしゃべりしながらお食事。私も参加させていただき、さらにディープなお話(特にLGBT系の)も聞けたりして、見聞が広がりました。気がついたら11時。たまたま乗った電車が終電でした。

★参考リンク
・RENT(東宝)
 http://www.tohostage.com/rent2012/

・エイズ&ソサエティ研究会議(この会の主催者)
 http://www.asajp.net/

・ゲイカルチャーカフェ gossip(会場となったカフェ)
 http://gossip-cafe.com/

・特定非営利活動法人 日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス
 http://www.janpplus.jp/

・特定非営利活動法人 ぷれいす東京(HIVの相談など)
 http://www.ptokyo.com/

にじ色ライフプランニング入門--ゲイのFPが語る〈暮らし・お金・老後〉



コメント(0)  トラックバック(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。