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ルーマニア国立ラドゥ・スタンカ劇場「ルル」を観てきました [芝居]

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2/28(木)14時から、こちらでご紹介したルーマニア国立ラドゥ・スタンカ劇場「ルル」を観てきました。これはよさそうだと直感し、近頃忙しくて疲れていたこともあり、この日は仕事を休んでしまおうと決めて、マチネに行ってきました。

行ってみてわかったのですが、終演後、演出家のプルカレーテ氏などのアフタートークと、同氏の初監督映画の上映会もあったのでした。

前半はネタバレ少なめに、でも明日のマチネで終了なので、後半はネタバレでいきたいと思います。

ルル 東京芸術劇場 プレイハウス内特設ステージ
作 フランク・ヴェデキント
演出・脚色 シルヴィウ・プルカレーテ
翻訳 ヴィクトル・クコラデツ
舞台美術・照明デザイン ヘルムト・ストゥルメル
衣装デザイン リア・マンツォク
音楽 ヴァシレ・シルリ

出演
ルル オフェリア・ポピ
シェーン博士 コンスタンティン・キリアック
ゲシュヴィッツ伯爵令嬢 マリアナ・ミフ
            ディアナ・フフェザン
シュワルツ ミハイ・コマン
ゴル博士 軽業師 クリスティアン・スタンカ
アルヴァ アドリアン・マティオク
ヘンリエッテ クリスティナ・ストレリゥ
シゴルヒ ダン・グラス
フェルディナンド パリ・ヴェセイ
ジャック カタリン・パトル

エマ・ヴェツェアン
ラルカ・ヤニ
クリスティナ・ラゴス
ジェル・ポトゾリ
エドワルド・パトラシュク

音楽(*演奏、女性3人でヴァイオリンなど)    ラウラ・カリナ
   アンカ・ロレダナ・ザンカ
   コラ・ミロン

*日本側の芸術監督は野田秀樹。(その他の日本側スタッフは省略します。)


■おおまかな感想(ネタバレ少なめ)
とにかく色んな意味でビックリしました。舞台上でここまでやっていいの?というか、役者さんをここまで酷使する?というか、みちゃいけないものをいやおうなくみせつけられ、全く目が離せない感じでした。とにかく客席と役者さんの距離が近い。そんな中、エロティックで残酷なドラマが繰り広げられていくのです。ルルという女の妖艶な魅力で多くの男が欲望に狂って悲惨な最期を遂げていく、「春のめざめ」のヴェデキントらしく、どぎつい性描写、殺人、同性愛などなんでもありで、100年前のドイツでは発禁処分になったという衝撃度。(「春のめざめ」も発禁処分になっていますね。ブロードウェイ版ではラストが変更されていますが、本当はピストル自殺した少年が吹っ飛んだ自分の頭を小脇に抱えて登場するなど、悪趣味の極みともいうべきラストだった。)でも、これだけの演技をやってしまう役者さんたちのすごさにも驚きました。

ルーマニア語上演で、イヤホンガイドで同時通訳的に日本語のセリフが聞こえるようになっていて、話の内容が理解できるようになっています。ガイドの人は途中で交代しつつも基本的にひとり(女性)で男も女も全てのセリフを読み上げます。吹き替えではないので、セリフは棒読み。ルルのセリフで「いいわ、そこよ、イクわ」みたいなものもふつうに棒読み(笑)。ガイドが棒読みでも役者さんの迫真の演技やセリフの言い方で、どんな場面かはもちろんわかるんですけどね。



この辺からネタバレしていきたいと思います。まずはステージの形状から。



■特設ステージ
この公演でまず驚くのが特設ステージ。説明が難しいのですが、ステージの上に横馬蹄形の客席が作られているのです。
Lulu_stage01_IMG_0896.jpg
赤いシートの客席の奥に本来のステージがあり、上部が白く光ってみえる壁が特設の客席の裏側にあたります。

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これが特設客席からみた舞台(テーブルがおいてあるところ)とその周囲を囲む客席。写真の右斜め上の側の客席の後ろが、さっき入ってきた赤い椅子のある客席(今回は使わない)のあるところです。意味わかりますかね??ちなみにこれは1幕の前の写真です。

Lulu_monitor_IMG_0895.jpg
インターミッションの間にロビーでみつけたモニターの写真。客席が馬蹄形なのがわかりますね。この写真だと、左側の客席の後ろが本来の客席です。馬蹄形の空いている部分(写真の上側)には黒いカーテンがあり、開け閉めして使います。これは2幕前の写真なので、舞台の中央に浴槽があります。

公演のあとのトークで聞いたのですが、このステージはルーマニアで上演した時と同じ形になるよう日本で作ったものなんだそうです。色んな国で上演したけれど一番よくできていたとプルカレーテ氏が言ってました。この形は解剖学教室をイメージしているとか。真ん中に大きなテーブルがあって、生徒達が解剖の様子を見下ろすように客席を作っていると。かなり急斜面で狭い客席です。解剖学と聞いて、確かに、この血なまぐさいお芝居にはふさわしいかもと思いました。

■ストーリー
第一幕
はじめに猛獣使いが出てきて、頭に紙袋をかぶった男たちを「トラ」とか「熊」などと紹介する。そのあとで馬蹄形の中心にある扉から男が最小限の下着をつけた女をビニール袋に入れた状態(足と顔は出てる)で担いで出てくる。「こいつはヘビだ」といってテーブルの上にどさっと置く。(それがルル。)しばらく見せたあとまたその男が荷物のように担いでもって帰る。

若い写真家(原作では画家、の仕事場に年配の男(シェーン博士)が婚約者の写真を撮りにくる。そこへやはり年配の男(医事顧問官)が妻であるルルを連れてやってくる。ルルの写真を撮らせるためで、ルルは薄い白いネグリジェのような服に着替え、すそをひらひらさせるので「下着がみえるよ」と夫にいわれ、こんなものいらないわと黒いショーツを脱いで投げる。スカートをかなりたくし上げたり、寝転んだり、みえちゃうんじゃないの?と思うくらい。夫と、最初にいた男が出掛けると、ルルは写真家のことを誘惑し始める。写真家がその気になると逃げるなどさんざんじらして、しまいには写真家につかまって男が服を脱ぎだしたところにさっきの男2人が戻ってくる。で、夫はもちろん怒るのだが、怒りのあまり心臓発作を起こし(?)その場で死んでしまう。そこに革命が起きたと知らせにきた男がいて、死んだ男のことは革命のどさくさで上手く処理しようということになる。

ルルは写真家と結婚し、別な名前で呼ばれるようになる(それぞれの男がちがう名前で呼んでいる)。写真家はルルが処女だというのを信じ込んでいて、ルルを愛しているが、彼女を性的に満足させることができず(男は気づいていないが)、ルルは色んな男と浮気している。そこへホームレスが物乞いにやってきて、家に入り込んでくる。写真家が別の部屋にいる(?)のでルルはその男ともいちゃいちゃする。彼はルルの養父(シゴルヒ)らしい。首から小さいアコーディオンを下げているのだが、ルルがその蛇腹をのばしたり縮めたりして、それにあわせて男がのけぞったりして、最後にアコーディオンから手を離すとだらんと下にさがって、「最近はもう使い物にならないよ」的なことをいう。

その男が帰ったあと、シェーン博士がきて、「近々結婚するのだから、うちにはもうこないでくれ」と言うが、ルルはその男ともいちゃいちゃ。それがバレて、写真家の男はナイフで自殺してしまう。

シェーン博士の妻になったルル。それでも浮気するルルに博士はモルヒネ中毒になっていく。そこへ同性愛者のゲシュヴィッツ伯爵令嬢が男装で現れ、ルルをパーティーに誘う。「必ず男装してきて」と。でもルルは興味を示さない。シェーン博士は嫉妬して、ルルにピストルを渡して「これで死んでくれ」と強く迫るが、ピストルをめぐってあらそっているうちに、ルルは博士を殺してしまう。

第二幕
舞台の中央に浴槽がおかれている。黒いカーテンの手前に小さな台が2つあり、それぞれに全身黒塗りした男がコードのついた電灯をもって立っている。男がやってきて、その黒塗りの男のおっぱいを手でねじるような仕草をすると照明が徐々に暗くなったり明るくなったりするし、胸(乳首?)を指でオスと電気がついたり消えたりする。何人かの男や女が戯れていて、ルルは2人の男に担ぎ上げられて、いきなりお湯(?)の入った浴槽にどぼんと落とされる。もちろん全身びちゃびちゃ。それでも結構長い間そこに入っている。そこへ伯爵令嬢がきて、「私を愛して」というようなことを言って自分から浴槽に入るのだが、ルルは「絶対イヤよ」と言って、伯爵令嬢の顔を浴槽に沈める。で、ずっとそのままなので、上手く呼吸できるようにしてるんだろうけど、かなりビックリ。

男が大きな黒い袋を持って来て、突然茅葺き屋根の茅みたいな(乾燥しているもの)をそこから大量に出して床一面に広げる。そこに、養父と、シェーン博士の息子(アルヴァ)のふたりの男が入ってくる。若い方の男は作家かなにからしいんだけど、ルルに病気をうつされて働けない状態。茅がまき散らされているので外かと思ったら一応屋内という設定のようで雨漏りもしていて、洗面器みたいなものがおいてある。ルルはもともと下着姿だったのかよく憶えてないのですが、薄い白いワンピースをびしょぬれになったところに着て、ブレザーみたいな黒っぽい上着を羽織って、男2人に売春の相手を捜してくるように言われる。ルルが出掛けて、きゃはきゃは笑う声とともに音を連れて戻ってくる。相手はイギリス人なのか英語で話しかけたりしてる。で、黒いカーテンの奥に誘い込む。その間に男2人が連れ込まれた男の上着からお金を抜き取る。2人目の男の時は、アルヴァが嫉妬のあまり襲いかかり、逆に殺されてしまう。その死体を黒いカーテンの向こうに引きずっていくと血のあとが床に残る。途中で伯爵令嬢が自殺しようとして首にひもを巻き付けて倒れてしまうが、ルルはおかまいなし。それでさらに悲観して、ピストル自殺しようとするができない。ルルが連れ込んだ3人目の男とはお金の交渉でもめてルルは扉のある方(馬蹄形の真ん中部分)の方に男に連れて行かれる。そこでものすごい悲鳴が聞こえて、ルルが飛び出してくるのだが、股間を押さえていて、ワンピースのその部分が血だらけになっている。必死で逃げ回るルルは反対側(黒いカーテン側)に逃げ込むがそこでもさらに悲鳴が。そこから出てきた男は手に血だらけの臓器を持ってそれをガラス瓶のような容器に入れて持ち帰る。

今思うと前回のルルの紹介記事でも紹介したトレーラー動画はこのお芝居のダイジェスト映像であることがわかります。そう思ってよくみてみてください。血だらけの臓器をビンに入れるところも写っています。

◆Lulu Purcarete (youtube動画)
http://youtu.be/Lvvm4BwqAoY

◆参考文献
ルルのストーリーでうろ覚えな部分は、当日全員に配られた(座席においてあった)パンフレット(A3サイズ二つ折り、フルカラー)と、こちらのオペラ版のルルのストーリーを紹介されているサイトを参考にさせていただきました。
http://www31.atwiki.jp/oper/pages/648.html

◆オペラ版DVD
オペラ版は若干ストーリーがちがうようですが、みれば参考になるのかも。


ベルク 歌劇《ルル》全曲 [DVD]


ベルク:歌劇「ルル」 [DVD]

「ルル」は、フランク・ヴェデキントのルル二部作と呼ばれる「地霊」と「パンドラの箱」をまとめた作品とのこと(のちにアルバン・ベルグがオペラ化)。アフタートークで聞いた話では、この作品の第1稿は発禁処分になっていて、約20年後に修正した第2稿でやっと上演できたそうです。今回上演された「ルル」は、その発禁処分になった第1稿に基づいていて、「一般に知られている形よりも少し厳しいタッチ、医学的、重い作品になっている。」とのことでした(演出家のプルカレーテ氏による)。


◆原作(現在は絶版のようで中古品しかないようです。)

地霊・パンドラの箱――ルル二部作 (岩波文庫 赤 429-1)

■おまけ
この日は公演のあと、演出家のシルヴィウ・プルカレーテ氏、ラドゥ・スタンカ劇場の芸術監督?で今回の出演者でもあるコンスタンティン・キリアック氏のトークがあり、聞き手は扇田昭彦氏でした。

扇田氏によると、東京芸術劇場の芸術監督で、本公演の日本の芸術監督でもある野田秀樹氏がこの作品をみてとても感銘を受けたということで、ラドゥ・スタンカ劇場の代表作のひとつ「ファウスト」を日本に招聘したいと、初日のアフターパーティーで関係者に直訴していたそうです。「ファウスト」には今回ルルをつとめたオフェリア・ポピ氏がメフィスト(悪魔)の役をつとめ好評を博したそうです。「ファウスト」は出演者が120人以上であることも含め、規模の大きな作品ということで、ヨーロッパではあちこちで上演されているけれど、海外に持っていくのは簡単ではないようなのですが、現在、韓国のソウルと中国の上海での上演が検討されているとのことで、それなら日本へもと野田氏が強くおしているそうです。

時間がなくてみれなかったプルカレーテ氏の監督作品「Undeva La Palilula」(英語タイトルSomewhere In Palilula)は、プルカレーテ氏の友人の医師が医学生時代や小さな村でインターンをした時の話などを、本当のことも冗談も交えながら語ったことをヒントに作られた作品だとか。「ルル」が終わったのが5時前くらいで、5時15分から30分トーク、そして映画が140分と聞いて、それでは終わったら8時過ぎてしまうと思いあきらめました。もうみる機会はないだろうけれど、「ルル」をみて、ルーマニア演劇のすごさに驚き、これからルーマニアと聞いたら反応してしまいそうです。「ファウスト」が来るならみたいですね。

会場で売られていた本「ルーマニア演劇に魅せられて」(七字英輔 著)はこの公演に合わせて急遽出版されたものだそうです。





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